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2025.07.11コラム
マンジャロは2型糖尿病や肥満症の治療薬として注目を集めている薬剤です。
開発・販売が開始されてから年数があまり経過していない新しい薬剤なので、「どのような効果があるの?」「なぜ肥満治療に効果的なの?」という点が気になる方も多いのではないでしょうか?
マンジャロはこれまでの糖尿病や肥満症薬剤とは異なる特徴を持ち、より高い効果が期待できることから広く注目を集めています。
今回は、最新のGLP-1受容体作動薬 マンジャロについて、特徴・メカニズム・注意点について詳しくご紹介します。
マンジャロ(一般名:チルゼパチド)とは持続性GIP/GLP-1受容体作動薬の商品名で、2型糖尿病や肥満症の治療に用いられています。
アメリカの製薬会社イーライリリーが開発した薬剤で、血糖値改善を目的として開発されました。GIPとGLP-1の2つの消化管ホルモンの受容体に作用するのが特徴です。
マンジャロはペン型の注射器(アテオス)に入っていて、お腹・太もも・二の腕などに皮下注射して使用します。
GIP (グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1 (グルカゴン様ペプチド-1)は、どちらも小腸から分泌される消化管ホルモンのことです。
GIPとGLP-1はともにインスリン分泌を促進するなど、似た作用をするホルモンですが、特徴や作用には異なる部分もあります。
GIP | GLP-1 | |
---|---|---|
特徴 | 食事を取ると小腸から分泌され、インスリン分泌を促進する。 高血糖が続くとGIPが効きにくくなることも(GIP インスリン分泌促進 グルコガン分泌促進 血糖値を抑えて食欲を抑制する 脂質代謝の促進抵抗性) | 食事を取ると小腸から分泌され、インスリン分泌を促進する。 |
作用 | • インスリン分泌促進 • グルコガン分泌促進 • 血糖値を抑えて食欲を抑制する • 脂質代謝の促進 | • インスリン分泌促進 • グルコガン分泌抑制 • 胃排出抑制(満腹感の持続) • 血糖値を抑え、満腹感を持続させて食欲が抑えられる |
大まかにまとめると、GIPは代謝を促進して食欲を抑える働きがあり、GLP-1は食欲を抑えて満腹感を持続させる働きがあります。
マンジャロはGIPとGLP-1の受容体に作用し、インスリンを促進して血糖値を抑えたり、食欲を抑制するといった効果があります。
これまで2型糖尿病の治療薬はGLP-1のみに作用するものがメインでしたが、マンジャロはGIPとGLP-1の両方に作用するため、従来の治療薬と比較して高い効果が得られる傾向にあります。
マンジャロと同じ成分「チルゼパチド」を用いた肥満症治療薬「ゼップバウンド」が開発され、アメリカでは2023年、日本では2025年から保険対象として処方が開始されています。
マンジャロとゼップバウンドの成分や投与方法は同じですが、適用となる症状や使用できる容量の幅などが以下の表のように異なります。
マンジャロ | ゼップバウンド | |
---|---|---|
適応する症状 | 2型糖尿病 | 肥満症 高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有していて食事運動療法でも十分な効果を得られない BMI27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある BMI35以上 |
薬価 | 低い | 高い |
投与 | 週1回の皮下注射 | 週1回の皮下注射 |
最低容量 | 2.5mgから開始して5mgまで増量(その後は症状に応じて増減) | 2.5mgから開始して10mgまで増量(その後は症状に応じて増減) |
マンジャロとゼップバウンドは内容は同じですが、薬価・最低容量はゼップバウンドの方が高く設定されています。
マンジャロの使用で体重減少するというデータはたくさんありますが、なぜ体重が減少するのでしょうか?
こちらではGIPやGLP-1の働きについて再度詳しくご説明しつつ、マンジャロの服用で体重減少するメカニズムについて解説いたします。
岐阜大学が行った研究でGIPは満腹ホルモンのレプチンの分泌を誘導し、食事量が減少し、体重と血糖値が低下することが分かりました。
この研究からGIPは過食・肥満・糖尿病が改善に効果的だということが明らかになっています。
参考:GIPは過食・肥満・糖尿病を改善することを解明: レプチン–満腹神経系を活性化する新規インクレチン治療の確立 | 研究・採択情報 | 岐阜大学
また、GLP-1は食べたものを胃から腸に異動するスピードを遅らせる働きがあるので、満腹感が長続きし、結果として食欲の抑制に繋がるでしょう。
マンジャロはインスリン分泌を促進し、血糖値を上げるホルモンの分泌を抑制する働きがあるため、血糖値が安定し食欲をコントロールしやすくなります。
血糖値の急激な変動は食欲増加や空腹感を覚える原因になり、過食などに繋がりやすくなってしまいます。マンジャロの働きで血糖値を抑えると、食欲も安定して食事量もコントロールしやすくなるでしょう。
マンジャロはGIPの受容体に作用することは先ほど解説した通りです。
GIPの受容体は膵臓、脂肪組織、脳、肝臓などに存在し、GIPが受容体に作用することで脂質の代謝を促進します。
脂質代謝が活発になると蓄えられた脂肪がエネルギーとして消費されやすくなるので、体脂肪率の減少も期待できます。
開発元のイーライリリーが公開した試験データでは、マンジャロの使用による体重減少量の75~80%は体脂肪の減少によるものでした。運動・食事療法と併用することで効率的に体脂肪率を落としやすくなるでしょう。
男性が肥満症治療のためにマンジャロを投与する際、もともとの体型や薬の飲み合わせなど、いくつか注意すべきポイントがあります。
こちらでは、マンジャロ使用前に知っておきたい3つの注意点をご紹介します。
マンジャロは健康疾患のあるBMI27以上の方、あるいはBMI35以上の高度肥満者への適応が基本とされています。
メディカルダイエットでマンジャロを提供しているクリニックの場合でも、BMIが低い方の場合は投与期間は短くするなどの対策を取っているケースが多いです。
当院では、処方基準値を20以上としており、処方毎に、体重の増減量や体調の変化の有無を確認し、BMI値の慎重な管理を行っております。
BMI20以下の場合は、運動療法や食事療法でも十分痩身効果が得られる可能性が高いので、まずは普段の生活の見直しからはじめてもよいかもしれません。
マンジャロには併用禁忌の医薬品などはありませんが、他の糖尿病薬(ビグアナイド系薬剤など)やクマリン系薬剤などの飲み合わせには注意が必要です。
また、甲状腺疾患、腎機能障害などの持病がある方は、副作用が強く現れる恐れがあるためあらかじめ医師に使用の是非を必ずご確認ください。
特に過去に膵炎を起こした経験のある方、現在膵炎と判断された方は投与できない可能性が高いので必ず事前に医療機関での診断を受けましょう。
マンジャロを使用中の副作用として多いのが、吐き気・嘔吐・下痢・便秘・腹痛などの消化器症状です。
マンジャロを初めて投与する場合や、容量を増やした場合などにはこうした副作用が出やすく、軽微な症状であれば医師の指示の元、投与を継続することが多いです。
耐えがたい腹痛や背部痛がある場合は急性膵炎など重篤な症状の可能性があるため、自己判断で放置せず直ちに使用を中止し、医療機関を受診してください。
ただ、急性膵炎や胆のう炎などの副作用の発生率は0.1%未満なので、使用前に過度な心配は不要です。
その他、動悸や息切れ、低血糖の症状(震え・冷や汗)などの症状が現れた場合も、速やかに医師に相談しましょう。
マンジャロは血糖値や食欲を抑える働きがある薬剤で、肥満治療に高い効果があると考えられています。
投与も週1回の皮下注射なので続けやすく、食事のタイミングを調整する必要がないというメリットもあります。
ただ、ご紹介した通りマンジャロには、体型や体質によっては低血糖のリスクがあったり、薬の飲み合わせに気を配る必要がありますので、使用の前には医師とよく相談しましょう。
マンジャロは飲み薬の開発や、個別化医療への適用などの研究も進められています。
今後も大きな進化が期待されており、肥満症治療の新たなスタンダードとなる日も近いかもしれません。